開講に際して

3.11で被災したまちの復興において、文化芸術に何ができるか。

多くのアーティスト、クリエイターがこの問いを抱えながら、この一年と三ヶ月ほどの月日を過ごし、様々な思考、実践を繰り返し、各地に入っていったと思う。

 

僕の場合も、震災後の半年間は直接現地に訪れることができず、正直に言えば、日常的な創作の延長線上で、自分のしていることがどこかの誰かに回り回って伝わって、それで縁に導かれていくことを待っていた気もする。

 

2011年の12月に初めて、森司さん(東京文化発信プロジェクト ディレクター)から声をもらい、訪れた先は、ようやく瓦礫の処理が終わったばかりの、一見したところまちの体をほぼすべて失ってしまっている状態の岩手県上閉伊郡大槌町だった。同地で復興食堂を立ち上げている地元の方々や、青年会の方々、役場の復興のキーマン、老舗のまちづくり団体の方々などの前で、「文化芸術という視点から、復興におけるまちづくり、コミュニティのあり方を考える」ことをテーマに自分のこれまでの活動をお話しした。公民館に臨時的に集められている、被災を免れた書物群に囲まれた部屋で、プロジェクターの高さを調整するためにすぐ近くにある本を手に取った、それをプロジェクターの下に敷こうとして覗き込むと、なんとその本が偶然、井上ひさし氏の『吉里吉里人』だったことはすごく印象深い。

 

「住み開き」をはじめ、各地で重ねて来たコミュニティに関わるプロジェクトの話をひととおりする中で、不安がつのっていく。「僕の話はここではどのように受け取られるのか、受け入れられているのか」と。しかし話が進むにつれ、単にイベントをするとか、祭りをするとかそういうことでなく、その前や先に何かコミュニティが生まれてくることの重要性みたいなものを、ひしひしと感じて下さった方々が現れ、徐々に応答が盛り上がっていった。そして大槌町 生涯学習課長の佐々木健さんをはじめ、この地に、このような勉強会を繰り返しながら、復興計画にソフト的な、文化芸術的な視点を埋め込みながら、大槌町の未来を走りながら考え、考えながら走り、作り続けていく塾を立ち上げるという話になった。

 

名前は「ひょっこりひょうたん塾」。

大槌町にゆかりの深い、かの井上ひさし氏が編み出したひょっこりひょうたん島のモデルは、同地の蓬萊島から来ていると言われている。「だけどぼくらはくじけない」の精神をもって、奇想天外の発想を交えながら困難を乗り越えていく、その創造性と実効性。それを獲得するための人材を、町内外問わず、Iターンも含めてこのこのまちに生み出していく。

運営母体は、この話の大元を構想し、大槌町と話し合いを続けて来た、東京文化発信プロジェクト室を管轄する東京都・東京歴史文化財団、中間支援NPO いわて連携復興センター、そして大槌町。

この12月以降、僕はこの塾を正式に立ち上げるための運営スキームの構築、塾のプログラム監修責任を担うこととなった。

 

毎月数日、現地に訪れ、関係各位が夜な夜な議論をする。事務局として大阪から来てもらった安川雄基くん(アトリエカフエ)や、現地事務局員として駆け回る阿部智子さん、そしてケースバイケースで、地元の方々に塾の構想を説明しつつ、アドバイスを貰いながら進めて来たが、これがなかなかまとまらない。まず関係者の中でこの塾の目指すべき目標や立ち位置に対する認識が違う。少し抽象的かつ専門的になるが、このプロジェクトは文化芸術的な視点を持ちつつ、まちでプロジェクトを作っていける人材を作り上げるためのプロジェクトであり、まちで何かプロジェクトを直接いますぐ立ち上げることそのものを目的としておらず、その前段階を担うべきものだ。だからいわゆるイベントや祭りをするのとは大きく違う。座学や議論を中心にしつつも、プロジェクトマネジメントのより実践的なパイロットワークとして、きむらとしろうじんじん氏(アーティスト)の「野点」などのプログラムも展開されている。だから、正直とても地味でわかりづらい取り組みなんだけど、そこでしっかり学びながら議論をすること自体が、中長期的には、きっと大槌の未来を創造的に語る種となってゆくだろうという確信がある。その確信だけは、これまでの議論の積み重ねから強くなっていき、少しずつではあるが、町内外の様々な人たちがこのプロジェクトに関わりを深めていってるのだ。

 

とにもかくにも、まずは大槌町に来ていただき、地元の様々な声(もちろん、「こんな時に文化芸術なんて」や「そもそも文化芸術に興味なんてない」といった声も多数あるのでそこも含めて)を聞き、自らの頭で復興でいま、この地でいま、何が必要なのか考える機会としてこの塾を活用してほしいんです。本当に小さな取り組みからですが、ぜひ皆さんの関心がこれから先も、目に見える復興が終わったそのあとも、新たな回路でもって繋がり続けるように。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

2012年6月8日 日常編集家 アサダワタル

 

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